越境ECで海外販売をしていると、海外の購入者から「インボイスの金額を安く書いて送ってほしい」と頼まれることがあります。
理由は、インボイスに書く申告価格(インボイスバリュー)を低くすれば、購入者の国でかかる関税や通関コストを安くできるからです。このように、実際の販売価格より意図的に低い金額で申告することを「アンダーバリュー」といいます。
「ほかの人もやっているから大丈夫」「断ったら買ってもらえない」と、つい応じてしまいがちですが、アンダーバリューはれっきとした不正行為です。さらに、あとの税務調査で日本の消費税還付が認められなくなるリスクもあります。
この記事では、国税不服審判所の実際の裁決事例をもとに、アンダーバリューがどんな結果を招くのかをわかりやすく解説します。

アンダーバリューの仕組みと問題点
海外へ商品を送るときは、税関に対して商品の価格(インボイスバリュー)を正しく申告しなければなりません。
多くの国では、このインボイスバリューをもとに関税などが課税されます。ただし、一定の金額未満であれば関税がかからない「免税枠」を設けている国もあります。アンダーバリューは、この免税枠を悪用する行為です。
具体的な金額例
※わかりやすくするための架空の例です。「免税枠1万円・関税率10%」の国に、3万円の商品を送る場合を考えます。
| 正しく申告 | アンダーバリュー | |
|---|---|---|
| 実際の販売価格 | 30,000円 | 30,000円 |
| インボイスの記載額 | 30,000円 | 9,000円 |
| 購入者の関税負担 | 3,000円 | 0円(免税枠内) |
申告額を不当に下げれば、購入者の関税負担をゼロにできてしまいます。価格競争力を高めたいセラーが応じてしまうケースもありますが、これは本来払うべき税金を不正に逃れる行為にほかなりません。
裁決事例:消費税の輸出免税が認められなかったケース
国税不服審判所の裁決(平成29年9月15日裁決)では、国際郵便で商品を輸出していた個人事業者について、一部の取引で輸出免税が認められず、消費税の更正処分と過少申告加算税が課されるという判断が下されました。
この事業者は、20万円を超える商品を郵便で送る際、取引先の要望に応じて、郵便の発送伝票に20万円以下の金額を記載していました。
海外の関税を安くするための行為が、なぜ日本の消費税に影響したのでしょうか? ポイントは、国際郵便のルールと、輸出を証明する書類の関係にあります。
国際郵便の「20万円の壁」
国際郵便(EMSなど)で輸出する場合、商品の価格によって必要な手続きと、保存すべき書類が変わります。
- 20万円超:税関への輸出申告が必要。発行される「輸出許可通知書」の保存が、輸出免税を受けるための条件になる。
- 20万円以下:税関への輸出申告は不要。代わりに、郵便局の引受証や発送伝票の控えなどを保存することで輸出を証明する。

輸出免税が認められなかった理由
この事例では、実際の取引価格が20万円を超えていたのに、アンダーバリューで20万円以下として発送していました。その結果、次のような流れになりました。
- アンダーバリューで、20万円以下の郵便物として発送
- 20万円以下の扱いなので、税関の輸出申告をしておらず、輸出許可通知書がない
- しかし実際の取引額は20万円超なので、輸出免税を受けるには輸出許可通知書の保存が必要
- 税務調査で必要な書類を示せず、輸出免税が認められないという結果に

輸出免税が認められないと、その売上は国内取引と同じく消費税の課税対象になります。つまり、本来受け取れたはずの還付が減るうえに、追加の税金や加算税まで払うことになるのです。購入者の関税を安くするための行為が、自分自身に大きな損失として返ってきたことになります。
なお、20万円以下の取引であっても、発送伝票に実際と違う金額を書けば、その書類は正しい輸出の証明になりません。金額に関係なく、アンダーバリューはリスクしかない行為です。
「みんなやっているから大丈夫」は通用しない
越境ECを始めたばかりの方の中には、アンダーバリューの危険性を知らないまま応じてしまうケースも少なくありません。中には、アンダーバリューをすすめるような不適切な情報も出回っています。
しかし、税務署の越境ECに対する知識や調査の精度は、以前に比べて大きく向上しています。昔は見過ごされていたようなケースでも、今は厳しくチェックされ、輸出免税の否認や追徴課税(加算税・延滞税)につながることがあります。
まとめ:ルールを守って、健全な輸出を
消費税還付は、越境ECセラーにとって大切な利益の源泉です。目先の販売機会や購入者の要望を優先してアンダーバリューに応じると、事業そのものに大きなダメージを受けかねません。
- インボイスや発送伝票には、必ず実際の販売価格を記載する
- 購入者から金額を下げるよう頼まれても、はっきり断る
- 輸出許可通知書や発送伝票の控えなど、輸出を証明する書類をきちんと保存する
輸出代行会社を利用する場合も、法令を守る意識を持つことが大切です。正しいルールで、長く続けられる海外販売に取り組みましょう。
参考:国税不服審判所「平成29年9月15日裁決」
※具体的な手続きや保存書類は、配送方法や事業の状況によって異なる場合があります。判断に迷う場合は、税理士や税務署に確認することをおすすめします。

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